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国境越え
1時、目が覚める。
意外と3時間ほど寝ていたらしい。
車内は快適な睡眠環境とは程遠い状況にある。
ガタンゴトンどころではない振動がダイレクトに伝わってくることに加え、車両のドアも下部が切り取られたような形状になっており、外界の音も匂いも全部入ってくる。
それでも眠ることができるタイプでよかった。
外は暗くてほぼ何も見えない。
駅で停車しない限り、外からの明かりは入ってこない。
GPSで現在位置だけ確認し、再び目を閉じる。
4時。また3時間近く寝ていたらしい。
合計6時間も睡眠を確保できるとは思っていなかった。
もう起きてしまってもいいだろう。
何やらカーテンの外で人の動く気配が。
停車した駅にて何人も降車していった。
進路としてはタイ南部の内陸部に入ってきているようだ。
顔を拭き、荷物を整え始めよう。
外はまだ真っ暗。
その後も主要駅に停車しては、数名が降車していった。
6時頃には外もようやく明るくなってきた。
晴れているなと思っていたら一帯が霧に包まれたりと、天気の移り変わりが激しい。
車窓の風景はずっと緑豊かで、様々な鳥が飛んでいるのも見えてとてものどかだ。
窓付きの寝台にして本当によかった。
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寝台から見る夜明け |
7時、ハートヤイ駅に到着。
ここまで停まってきた中で一番大きな駅だと思う。
なんと、ほとんどの乗客がここで降車。
9割ほど降りたのでは…?
ということは大体タイ人だったのか。
少年たちも女の子もここで降りていった。
車両には私と、1組の家族連れが残るのみ。
隣も寝台車両だが、きっと同じような状況だろう。
マレーシアまで行く外国人が多いのかと思っていたら、圧倒的少数派だったようだ。
列車がゆっくり動き出した。
え、逆戻り…?
と思ったらすぐに停止。
再び元の位置に戻っていく。
車両の連結を切り離す作業でもしているのだろうか。
このまま乗っていて大丈夫なのか急に不安になってくる。
どうやらハートヤイ駅には20分ほど停車する模様。
少し外に出てみてもいいのだが、閉め出されるリスクがあるため大人しく車内で待機。
寝台の解体も始まった。
売り子もちらほら乗り込んでくる。
揚げ物をそのままかごに入れていたり、ポットを片手にカップ麺を売るなどという荒業も。
買わないかとアピールされるも、もう少しで到着のため今食べ物を買うのはやめておこう。
結局、売り子からは何も買わずじまいだった。
自分の寝台が最後の解体だったようで、一時的に隣の席へ移動して片付けてもらい、また席に戻る。
車両の中央付近にいた家族が隣の席に移ってきた。
すぐ降りられるようにスタンバイ。
小さな男の子がぐずりだした。
あと少しで到着だ!
いよいよ国境が近付いてきた。
ここで注意なのが、【Padang Besar】という駅がタイ側とマレーシア側のそれぞれに存在するということ。
タイ側はスルーして、マレーシア側で降りなければならない。
事前サーチで散々確認したため、間違いない。
GPSで位置を追いながら、決定的瞬間をスクショ。
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国境なう |
8:16、国境を越えた。
そしてすぐにマレーシア側のパダンべサール駅に到着。
MDACの登録確認を経て、タイ出国レーンへ向かう。
パスポートを出し、目の前のカメラを見つめている間にスタンプを押してもらうだけで出国完了。
そのまますぐ隣のマレーシア入国レーンへ。
またパスポートを出し、機械に指を置いて指紋をとっている間にスタンプを押してもらうだけで入国完了。
荷物検査はベルトコンベアにさっと通すだけ。
ちゃんと見ているのだろうか。
ともかくこれで正式に、マレーシアに入国できたようだ。
空港での手続きよりよほど早い。
タイから1時間進んで9:30と…
腕時計の時刻を変更する。
電波ソーラーのため、タイムゾーンを設定すれば自動で時刻を合わせてくれる。
マレーシアの選択肢がなく、時差が同じシンガポールで設定。
この先フィリピンまで、時刻を変更する必要はない。
日本との時差は1時間。
スマホはまだマレーシアだと認識してくれないようで、8:30のままだ。
海を渡る
ここからは列車に乗り、マレーシア北西部の海沿いの街、バターワースまで向かう。
列車のチケットはTHBで購入することができた。
朝はまだ何も食べていないため、駅の売店で朝食を調達したい。
この売店で両替できるという噂があり、聞いてみる。
本当に両替してもらえるようだ。
手持ちのTHBがあまりにも少額で申し訳なかったが、どうにかなけなしのMYR(マレーシアリンギット)を手に入れることができた。
パンを買い、テーブル席に座って食べる。
しばらく駅で待つ。
ようやくスマホもマレーシアだと認識し、時刻が正しくなった。
ホームに現れたのは年季の入った車両。
窓側の空いている席に適当に座る。
車内は謎の明るい音楽が流れている。
例によって冷房はキンキン…
ここから終点バターワースまでは約2時間。
今のうちに、溜まっているメモを書いてしまわねば。
外はひたすら緑豊かな風景が続く。
途中の駅でかなりの人が乗り込んできて、車内は混雑。
終点が近付いてくると、高層ビルやマンションが目立つように。
一気に都会になってきたのが分かる。
乗客もどんどん降りていき、過密状態からは解放された。
あっという間にバターワース駅に到着。
あぁ…タイとは明らかに匂いが違う…
気候もどこか爽やかな気がする…
ここまで来てようやくマレーシアにいる実感が湧いてくる。
目的地ペナン島へは、海を渡ることになる。
フェリーのマークの看板を頼りに、駅直結の通路をしばらく歩くと港が見えてきた。
船に乗るというのはなぜこんなにワクワクするのだろう。
窓口でチケットを購入する。
料金はわずか70円。
そんな安くでフェリーに乗れるとは夢のようだ。
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清々しい空と海 |
昼の便ということもあってか、船内は満席。
明らかに富裕層と思われるマダムの集団や、学生くらいの若者など、乗客は多種多様。
バイクとともに乗り込んでいる人も多い。
10分ほどでペナン島の港に到着。
地図で見ても分かるが、とても近い。
島での滞在拠点はジョージタウン。
【マラッカ海峡の歴史都市群】としてマラッカとともに世界文化遺産に登録されている。
まずは両替。
パダンベサール駅で手に入れたわずかなMYRでは何も買えない。
マレーシアにはクアラルンプールを含め3.5日滞在するため、10,000円分を両替。
今日はまだ移動しかしていないが、時刻は14時になろうとしている。
何か食べに行こう。
屋台が集まるエリアに向かう。
たくさんのテーブルと椅子が出ていて、地元民と観光客で賑わっている。
通り沿いの一番目立つところにある人気店でナシレマを注文。
飲み物がないため別の店でアイスの中国茶も頼んだ。
ナシレマとは、ココナッツミルクで炊いたごはんに卵と揚げた小魚、サンバルなどが添えられたマレーシアの国民食。
この店のナシレマはちまきのように葉っぱで包まれており、少し大きめのおにぎり1個分くらいの量だ。
プラスチックのレンゲでひと口食べてみる。
辛い…!!
これは相当辛い。泣けてくるレベル。
鼻水が止まらない。ティッシュ必須。
汗も吹き出してくる。
しかし奥の方から旨味がどっと押し寄せてくる。
食べ比べていないため分からないが、おそらくこの店のナシレマが特に辛いのだと思う。
辛いものがいける口ならぜひトライ。
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台の上には様々な種類のナシレマ包みが鎮座 |
ホテルにチェックインするには少し早い。
先ほどの中国茶では辛さがおさまらず、追加で何か飲みたい。
屋台のすぐ近くのカフェに寄ってしばし休憩。
それにしてもこのカフェの外観といい、内装といい、とても立派で思わずキョロキョロしてしまう。
黄色い格子窓が特に良い。
さすが世界遺産の街、この店に限らず、周りを見るだけでも古くて趣のある建物ばかりだ。
明日の散策が楽しみになってくる。
ナシレマの辛さも収束したためホテルに向かおう。
事前に知らされていた暗証番号でドアを開け、自分の部屋へ直行。
セルフチェックインのホテルだ。
部屋はコンパクトで、窓はない。
エアコンにベッドと椅子とサイドテーブル、以上。
バストイレは共用。
個室に1泊2,500円程度で泊まれるのだから十分だろう。
Booking.comのアプリのDMに、ホテルからメッセージが届いている。
「WhatsAppはやっていますか?もし番号をお持ちでしたら、観光に役立つペナンの情報をお伝えしますよ。」
そんなことが書いてある。
WhatsApp、存在はなんとなく知っていた。
日本のLINEのようなメッセージアプリだ。
相手の電話番号さえ知っていればメッセージを送ることができる。
こちらでは当たり前のように普及しているらしく、登録してみることに。
早速アプリをダウンロードし、自分の電話番号などを入力するともうメッセージを送受信できる状態になった。
そのあと本当にホテルからメッセージが届いて、おすすめの飲食店や土産物屋などを地図付きで送ってくれていた。
また、「明日は部屋の掃除は不要です。新しいタオルだけもらえますか?」といったやり取りもアプリ上ででき、思いがけず便利なツールを手にすることに。
このときの私はまだ、WhatsAppが運命を左右するほど大きな意味を持つことになるとは知る由もない。
とりあえず先に洗濯を済ませたい。
寝台列車に乗っていたため、昨日の分の洗濯ができていない。
シャワールームとトイレの場所を確認しに行く。
トイレしか発見できず、シャワーは別フロアなのかと思っていたら、どうやらトイレがシャワーだったようだ。(?)
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シャワー付きトイレ |
トイレのすぐ横にシャワーがあるのは海外では普通だが、ここまで境目がないのは初めてだ。
究極の省スペース。
日本のビジネスホテルのユニットバスレベルを期待していたとしたら受け入れられないだろう。
こんなもんだと思っておかなければならない。
そして受け入れて工夫して使うしかない。
温かいシャワーが出るだけでも奇跡。
洗面台で洗濯して必死に絞り、部屋のドアのところに付いていたフックに引っかけて干す。
どうしても服同士が重なってしまう。
これはなかなか乾かないかもしれない…
今日はまだまだ時間がある。
再び外に出てみよう。
やはりどの建物も素晴らしい…
すべてが絵になる。
古いものの決して退廃しているわけではなく、それぞれの建物にしっかり個性とオーラを感じる。
中国語にマレー語に英語にヒンディー語(タミル語?)…
様々な言語の文字が書かれた看板が共存しており、歩いている人も多国籍で、自分が今どこの国にいるのか分からなくなる不思議な感覚に。
タイルがかわいい… |
土産物屋に寄って、ポストカードを3枚購入。
ペナン島の建物のイラストが描かれている。
店のおばちゃんに話しかけられるも、一切意味が分からず曖昧な相づちを打つしかない。
これがマレー語?なのだろうか。
全く聞き馴染みのない言語で意味の予測すらつかない。
私がここまでで覚えたマレー語は、挨拶とお礼と食べ物ワードくらいだ。
擬似インド体験
夕食はナシカンダーで有名な店へ。
入り口は狭く、かなりの奥行きがあって広々とした店内。
いや、店内というより屋根のある屋外。
インドのタミル系イスラム教徒の行商人が、ジョージタウンの港湾労働者に売っていたカレーが元祖ナシカンダーだとか。
一体何食カレー料理を食べたら気が済むのだ。
店の人は皆インド系。
こんなことを言うと失礼だが、見るからに適当そうな雰囲気を感じる。
潔癖症だったらここで食事をするのはかなり厳しいと思う。
店のおっちゃんにスパイシーかノンスパイシーかとだけ聞かれ、咄嗟にスパイシーと答えてしまった。
本場の"スパイシー"は激辛の可能性が高い。
カレーの辛さには強い方とはいえ…大丈夫だろうか。
往年のカレーで黄ばみまくったプラスチック皿に何かがどんどん盛られていく。
好きなおかずを自分で選ぶのだと思っていたら、その余地はないらしい。
値段も分からぬまま、出されたものを黙って受け取るのみ。
ビリヤニにカレーをどばっとかけて、謎のきゅうり、巨大な鶏肉、目玉焼き、もやし炒めなどてんこ盛りだ。
飲み物はペプシ。
氷が大量に入ったコップをもらったが、どんな水を使っているか分からないこの氷が一番危険だと個人的には思っているため、ここは缶ごと飲もう。
スプーンが付いておらず、自前の割り箸をバッグの底から取り出す。
さすがに手で食べる勇気はない。
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無骨なテーブルに硬い丸椅子、これぞ外メシ |
思ったほど辛くはないが、スパイスがしっかり効いていてかなり好きな味だ。
鶏肉も食べ応えがあって旨味がすごい。
相当なボリュームだったがしっかり完食。
おっちゃんのチョイスは適当ではなく、これがきっと定番の盛り付けなのだろう。
衛生面だけが心配だ。
(このあと、特にお腹を下すこともなく一日を終えて心底ホッとした)
食べている最中に何かが足元をすり抜けていったと思ったら猫で、びっくりして飛び上がりそうになったり。
蚊に刺されて痒くなったり。
屋外ということもあって全く落ち着かなかったが、ナシカンダーはとても美味しかったため満足。
帰りにインド系のスーパーに寄ってみることに。
日用品も売っており、見ているだけで楽しい。
米コーナーに大量に積まれているのは長粒米の袋ばかり。
カレー好きが高じてとうとう日常生活においてバスマティライスを炊くようになってしまった身としては、簡単に長粒米が手に入る環境が羨ましい。
擬似インド体験もできてしまうペナン島、本当に面白い。
ホテルに戻り、今日の分のメモと計算。
このルーティンにもだいぶ慣れてきた。
なんだかんだ狭い部屋が落ち着く。
明日は丸一日、歩き回ろう。
そして建物の写真をたくさん撮ろう。
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